はぁ。
・・・つまんないなぁ。
だるい体を引きずり、一人真昼の道を歩きながら溜息をつく。
――最近、なんとなく調子が出なかった。
いまいちやる気がでないというか。
女の子との軽い付き合いに飽きが来てしまっている。
・・・藤井さんと会っていないことによって、心の充足感がなくなったのかもしれないとぼんやりと思った。
やっぱりたまには本命とも会わなきゃだめってことか・・・?
まぁ、他の男に行かれちゃ困るし。
今日の女の子のところから帰りながら、そんなことを思う。
藤井さんは好きだけど・・・。
いつもハの字眉毛の彼女を思い出す。
好きだけれど、何というか、恋愛としての熱さがいまいち足りなかった。
一緒にいて安心する存在ではある。だけど、その時の気分によっては「生ぬるい」と俺は感じていた。
まぁ、彼女はぬくぬくの毛布のような、家のような、そんな存在なのだ。
激しい恋愛の対象ではない。でもいないと困る。
そう思っていた。
そして、帰りながら、本当になんとなく、気まぐれのようにメールをしてみる。
こうして突然誘っても、彼女が二つ返事で俺の誘いをOKすることは分かっていた。
だから俺は返信にさして気も配らず、家に帰り、風呂からあがり携帯が光っているのに気づいたときやっとその返信を見た。
『ごめんなさい。その日は用事があるので行けません』
え・・・・・・・・・・・?
思わず携帯を取り落としそうになる。
瞬きをして画面を凝視した。
・・・俺の誘いを、あの藤井さんが断った・・・?
思いもよらない事態に、吃驚した。あの藤井さんが俺の誘いを断るなんて。
暫く呆然としていたが、我に返った途端、その如何にも申し訳なさそうな、憐れむような(と俺は感じた)メールに段々腹が立ってくる。
まるで俺が会いたくて会いたくて誘って、断られたような?
少し考えて、こう返信した。
『いいよ、今確認したら、俺もその日予定入ってたよ。ごめん?』
ごめんと謝ることで、自分の自尊心が少し保たれた気がしたが、何故か、自分でもよく分からない不安がこみ上げた。
藤井さんが泣いている。
小さな体を、心細そうに縮ぢこめて、か細い声で泣いている。
俺は、そんな藤井さんの肩に手を置く。
俺のその動作に肩をビクリと震わせた後、藤井さんがこちらを向いた。
そして藤井さんは、嬉しそうにほほ笑んだ。
・・・その目は俺をまっすぐ通り越していたが。
バッ!!
飛び起きる。
・・・夢か・・・。
心臓がバクバクと鳴っていた。息も荒く、体が嫌な汗でびしょびしょだった。
外を見ると、まだ真っ暗で、まだ真夜中のようだった。
・・・なんていう夢を見てるんだ、俺は。
夢を見て飛び起きるなんて今までなかったので、その事実に驚愕する。
そして隣を見ると、夢に出てきた彼女とは違う女の子が寝ていた。
・・・
「くそっ・・・」
片手で目を覆った。
――俺は何をしているのだろう。
そしてそれから一週間ほど藤井さんと会えない日々が続き、少しずつ会いたい気持ちが募ってしまっていた。
くそっ・・・・・・。他の女の子と居ても藤井さんを思い出してしまい、会えないと思うと余計会いたくなってしまう。
意地にならなければよかった。
いや、むしろ、藤井さんは俺に会わなくて平気なのか。
俺ですら浮気をしながらも、時々ちゃんと藤井さんに会っていたのに・・・会いたいと思わないのか。
もしかして浮気をしてるのか・・・?
そんな怒りを覚えて。
もう、頭の中は藤井さんでいっぱいだった。
会いたい・・・
何故か、藤井さんがすごく恋しい。
苦しい。
いてもたってもいられなくなった俺は、ここ最近のモヤモヤと気がかりを解決すべく、その足ですぐさま湘北に向かったのだった。
「きゃあああ!カッコイイ・・・」
「どこの高校?」
「あれ?あの人バスケの試合で見たことある!」
湘北まで行き、門に背を預け藤井さんを待っていると、ざわざわと女の子達が騒ぎ出し、まとわりついてきた。
だけど、今はそういう気分じゃないからあっちに言っててくれないかなぁ・・・?
うっとうしい。
視線で来るなと知らせてやる。
俺は、とてつもなくイライラしていた。
その時間帯は、部活帰りの生徒がポツポツと帰るような時間帯だった。
その中に藤井さんがいないかと、目を凝らして待っている時だった。
「今日の天才のあの活躍、どうでしたか!!」
馬鹿でかい声が校庭に響く。
この阿呆のような声は・・・
見ようとした瞬間、先ほどの声とは対照的なボリュームの声、女の子のそれが答える。
「すごかったよ、桜木君。」
―――――――――!?
聞き覚えのある声に、急いでその方向を見る。
そこには、そうでしょうそうでしょうと満足げにふんぞりかえった声の主――桜木の横に、小さな小さな藤井さんが並んで歩いていた。
とても楽しそうに話す二人。
俺は驚愕する。
・・・・・・・藤井さんのあんな顔、しばらく見ていなかった。
なんでだ・・・・・?
俺意外の男に、そんな顔・・・・・・・・・
その事実に、凄まじい怒りが、腹の底から憎しみが湧きあがってきた。
そして。
「なにしてんだ!?」
気づいた時、俺は二人の前に飛び出し、青筋を立てて二人を怒鳴りつけていた。
続く