博愛主義者6

それからというもの、遊んでいる途中に仙道さんが女の子とどこかへ行くことが多くなってしまった。
もう、空気のように、当然のように去っていく仙道さん。
でも、それでも私は何も言うことができない。
―――仙道さんは優しいから。
人を放っておくことはできないんだ。

そう言い聞かせる。

そして、約束をキャンセルされることも多くなっていた。
今日は学校が終わったら二人で買い物に行く予定だったのだが、案の定キャンセルされ、この後することがなくなってしまった。
家に帰るともっとさみしくなりそうだったので、自分の学校に残る。
放課後も、やはりバスケ部を見に行く気にはなれず、なんとなく裏庭に来てみた。


何故だかわからないけど、最近とても疲れているような気がして、一人で何も考えずにゆっくりしたかった。
最近よく松井ちゃんに、アンタものすごく顔色悪いわよ、大丈夫?と心配されるのだ。
確かにあまり寝ていないかもしれないけれど・・・その他には特に思い当たるふしは無かった。


だけど、そこには思いもよらぬ先客がいたのである。

桜木君・・・?

彼の姿を見て、思わず胸が締めつけられた。
桜木君と付き合ってるの、と言った時の晴子の顔が、頭から離れない。
楽しそうにデートしている二人の姿が浮かぶ。

だけど、彼は木に背を預けたまま、ずっと下を向いて座り込んでいたのだ。

私は迷ったが、思わず声をかけてみた。


「桜木君・・・どうしたの・・・?」

「・・・藤井さん?」

顔をあげた桜木君は、目が赤くて、・・・。
不思議と、気持ちが高揚した。

「すいません、こんなところ見せて」
桜木君が、そっぽを向いて目のあたりをごしごしとこする。
変に胸が高鳴る。
「なんでもないんすよ・・・」
そういって、また膝をかかえて黙ってしまう。でも、拒絶するようなオーラは出していなかった。
私はひらめき、「ちょっと待ってて」というと、手に2本のアイスを持ってその場に帰って来た。

「うまいっす。」
そう言って、思い思いのアイスを食べる。よかった、と私はほほ笑む。
桜木君は、とても大きいひと口でアイスを食べていて、それすら胸を高鳴らせる。
・・・桜木君の横でアイスを食べるなんて、不思議な感覚。頭は恐ろしいほど冷静なのに、心臓の鼓動がうるさくて、耳がすこし聞こえにくいほどだった。

食べ終わった桜木君が、唐突に口を開く。

「・・・別れたんす、ハルコさんと・・・。」
「え・・・」
「やっぱり忘れられないの、ごめんなさいって・・・可哀想なくらい泣いてたんす。」

別れた・・・?

忘れられないっていうのは、流川君のことだろう。

「・・・そっか・・・」
鼓動がうるさい。
相槌だけ打った。

「俺が忘れさせるって言ったけど、その思いを踏みにじるようなこと、やっぱりできないって。今ならまだ間に合うから、別れましょうって・・・」

段々と桜木君の声が詰まる。
桜木君の心中を察したら、私も思わず目頭が熱くなったが、ここで私まで泣いてしまったら駄目だ。

「本気で好きだから、俺も晴子さんには幸せになってほしいから・・・」
そう言って、ついにまた桜木君の目から涙が溢れだす。
私は歯を痛いくらい食いしばって、泣くのをこらえながら、桜木君の背中に手を回した。
立てひざの状態だから、母親が子供にするような抱擁だったかもしれない。

桜木君は、私の腕の中で静かに肩を震わせながら、泣いていた。

 

 

続く
(藤井さんはアイス手なずけを覚えた!)