博愛主義者5

別に騙してるわけじゃない。
俺は藤井さんをちゃんと好きで、可愛いなと思う。他の軽い付き合いとは分けてるし・・・。
最初に泣いていた時、自分のものにしたいなと思ったし、勿論独占欲はある。誰かにとられたらそれはそれで嫌だ。

・・・でも、人生で懸ける相手が1人だけなんて、さみしすぎやしない?
どうせ彼女は俺から離れていくことはできないんだし。

それに、まだまだ遊び足りないんだよ。
俺は最終的に自分が楽しければ、他はどうだっていい。


――――――――――――――――


目が覚める。まだ早朝だったがベットから起き上がり、顔を洗い支度にとりかかる。

―――昨日――。
夜、仙道さんからメールがきて、途中で帰ってしまったことへの埋めあわせだといって映画に誘われていた。

埋め合わせなんてしてもらうことが初めてだったので、メールを見た瞬間から嬉しくて、ドキドキして寝不足だった。
いつもよりさらに念入りに支度をする。服はどれがいいかなぁ・・・
約束の時間まではまだ充分に時間があるが、それまでには完璧にしておきたかった。

そして、結局私は待ち合わせの時間の1時間前に待ち合わせ場所に着いてしまった。

早く着きすぎちゃった・・・
楽しみにしすぎたのだろう。自分のうかれっぷりに密かに苦笑した。
そして、今日に起こるであろう楽しいひと時に思いを馳せる。


――2時間後。
まだ仙道さんは来ていなかった。
待ち合わせの時間はとうに過ぎている。場所もあっているはずなのに・・・

もしかして、事故にでもあったのかな・・・?

そう心配しながら携帯を見る。
もちろん連絡は来ていない。
電話をかけるが、コールをするだけで仙道さんは出なかった。
とりあえず、メールを送っておいた。

―――どうしよう。
ここを動いて家まで探しに行きたいけど、彼の家を知らなかった。

なので、家も知らない、電話も通じない私はここでただ待っているしかできなかった。

それからさらに2時間。
(仙道さん・・・)
不安で胸が押しつぶされそうになりながらも、祈って待っていた。

すると。

「やー、まった?」
そう明るい声で言いながら、仙道さんが現れた。

ホッ。
よかった、、無事だった。なんでもなかったんだ。思わず涙ぐむ。
よかった・・・。

「いえ全然!それより・・・」
どうしたんですかと聞こうとしたその瞬間、仙道さんの後にいる人影に気づいてしまった。

「・・・?」
固まってしまう。
「ああ、そうそう。この子さ」
仙道さんがそう言って後ろにいる子の紹介を始める。またもや綺麗な女の子だった。昨日の子とは違ったが・・・
心なしか、こちらを冷たい目で見ている気がするけど・・・。
「ここに来るまでに困ってたから、助けたら意気投合しちゃって。」
そう言って仙道さんは窺うような、そしてどこか自信に充ち溢れたような目でこちらを見てくる。
「それでさ、今日はやっぱりこの子と遊びに行くことにしたんだ。今からすることがないっていうからさ・・・」

「いいよね?」

そう言って、仙道さんは笑った。


その瞬間、息が詰まる。

そんな・・・
今日は、埋め合わせの日だったのに。
とっても楽しみにしていたのに。

楽しい今日の妄想が、ガラガラと崩れ去った。

仙道さん、行かないで。

そう言いたかった。
でも言えなかった。

「はい・・・」
出てきそうになることばを飲み込んで、蚊の鳴くような声で言う。体が震える。・・・これだけしか、声がでなかった。

仙道さんはやさしいから・・・
何度も何度も心の中でそう言い聞かせる。

「ごめんね。この子もかわいそうなんだ。・・・今度、また埋め合わせするから。ね?」
慈しむような目で女の子を見る仙道さん。

やさしいから・・・

「・・・はい・・・」
そう言って力なくうなずいた私を、何故か仙道さんはとても満足げに見つめた。


「ごめんね。ほんとにかわいそうなんだ。今日も会った時にさ・・・」
そう言って仙道さんが、女の子の可哀想な話をし始めたが、ほとんど耳に入ってこなかった。


あの日から、仙道さんにどんどん惹かれていくのが分かった。
桜木君に失恋してからそんなに日がたっていないというのに、私はその何気ない気づかいや、優しさ、意外な一面に触れて、どんどん彼に引きこまれていった。

でも、その万人に対する優しさは、理想ではあるものの、私にはとても辛いものでもあった。
そしてその優しさに嫉妬してしまう私の醜さにも気付かされた。

だめだ。
こんなことでは・・・

気がついた時、もうそこにニ人はいなかった。