博愛主義者3

今日は曇りだ。重苦しい厚い雲が空を覆っていて、今にも雨が降りだすんじゃないだろうかという天気だった。
ふと見ると、校舎の脇に植わっている真っ赤な花は少ししおれていて、力なく首を垂れていた。
それを見つめながら、昨日のことを思い出す・・・

今、私は綾南高校の門の前にいる。何故ここにいるのか・・・というと。
あの後、仙道さんに付き合わないかと言われた。
突然のことに、とんでもないと裏返る声で断ったが、結局強引な仙道さんに流されるまま頷かされてしまった。

不釣り合い・・・
そんなことは分かっていた。
仙道さんはとてもモテる。
あの見た目に天才的なバスケットの才能、モテない要素がないのだ。
そして・・・、とても優しい人だった。
でもだからこそ、返事をしてしまったのかもしれない。

待ち合わせをしよう。
そう言ったのは仙道さんだった。なので、私は今こうして今日は彼の高校の前で待っているのだった。

なんで、私なんかと・・・
答えの見つからなさそうな考えに耽った時、仙道さんの声がした。
体が強ばり、緊張する。
少しうるさい心臓を押さえながら、声のする方向を見やる。
と、そこには、楽しそうに綺麗な女の子の肩を抱く彼の姿があった。

え・・・?

明らかにカップルのようなその光景に、自分はやはりからかわれただけだったのだと急速に理解した。顔が熱くなる。
勘違いしたのが恥ずかしくて、このままここにいてはいけないと背を向けて走り出した。


走りながら、今のことと、さらに桜木君のことが思い出されて、また涙が出た。
とっくに2人からは見えるはずがない所まで遠ざかっているのに、自分を痛め付けるように、息が苦しくなるまでめちゃめちゃに走った。


その日の夜、仙道さんから電話がかかってきた。
「どうして待ち合わせ場所にいなかったんだ?」
咎めるような声で言われる。
むしろ、私が校門で待っていることを知っていながらどうしてああやって来たのだろうか。

「だって・・・他の人といたから・・・」
(私は邪魔だったんじゃないですか・・・)
すると。
「なんだ、そんなことか。あの子は、なんでもないんだよ。勘違いさせちゃってごめんね。」
え・・・。
・・・何でもない子の肩をああいう風に抱くんだろうか。
一般的に、どう見てもカップルのそれだった気がするのだが・・・でも、仙道さんがそう言うんだし、早くも彼女顔をしている自分があさましく感じて、それ以上問い詰めるでもなくそうなんだ、と理解をするよう努力した。
仙道さんは、彼女は藤井さんなんだよ、とそう言って笑ってくれる。
(こんな風に言ってくれるんだもの・・・)それだけでも、今の私にはとても有難いことだった。
色々とめまぐるしく変わる状況に付いていくのが精いっぱいで、私は一つ一つのことに対して深く考えることはしなかった。

続く